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広島高等裁判所 平成5年(ラ)133号 決定

平成五年(ラ)第一〇五号事件抗告人兼同年(ラ)第一三三号事件申立人兼同年(ラ)第一四七号事件相手方(以下「抗告人」という。) 中島武子

右代理人弁護士 馬場則行

平成五年(ラ)第一〇五号及び同年(ラ)第一三三号各事件相手方兼同年(ラ)第一四七号事件申立人(以下「相手方」という。) 福田昌史

右代理人弁護士 水中誠三

平成五年(ラ)第一〇五号、同年(ラ)第一三三号及び同年(ラ)第一四七号各事件相手方(以下「相手方」という。) 福田卓司

被相続人 福田里代子

主文

一  抗告人中島武子の寄与分を金三〇〇万円と定める。

二  相手方福田昌史の寄与分を定める処分の申立てを却下する。

三  原審判を取り消す。

四  被相続人の遺産を次のとおり分割する。

1  別紙遺産目録1、2の各土地は、相手方福田昌史の単独取得とする。

2  別紙遺産目録7の預金のうち、金一三四八万三四三五円を相手方福田卓司に取得させる。

3  別紙遺産目録3ないし6の有価証券(株式)、同目録7の預金のうち金一三四八万三四三五円を除く残高及び同目録8、9の預金(いずれも利息を含む。)を抗告人中島武子に取得させる。

4  相手方福田昌史は、抗告人中島武子に対し、前項1の遺産取得の代償として金六一万六五六五円を支払え。

五  本件手続費用中、原審での鑑定人西本軍人に支給した金一四万円は、これを三分してその一ずつを抗告人中島武子、相手方福田昌史及び同卓司の各負担とし、その余の手続費用は、第一、二審を通じて各自の負担とする。

理由

一  本件抗告の申立

抗告人中島武子の本件抗告の趣旨及び理由は、別紙(一)の即時抗告の申立書及び別紙(二)の平成五年一〇月二〇日付準備書面〈省略〉に記載のとおりである。

二  本件各寄与分の申立

抗告人中島武子及び相手方福田昌史の本件各寄与分の申立ての趣旨及び実情は、別紙(三)、(四)の各寄与分を定める審判申立書〈省略〉に記載のとおりである。

三  当裁判所の判断

原審及び当審の一件記録に基づく当裁判所の認定判断は、以下のとおりである。

1  相続の開始、相続人及び法定相続分

被相続人福田里代子(以下「被相続人」という。)は、平成三年四月二八日死亡し、相続が開始した。

相続人は、被相続人の長女である抗告人中島武子(以下「抗告人武子」という。)、長男である相手方福田卓司(以下「相手方卓司」という。)及び二男である相手方福田昌史(以下「相手方昌史」という。)の三名であり、その各法定相続分は、三分の一ずつである。

2  遺言の有無

被相続人は、平成元年九月ころ抗告人武子のもとに引き取られていく以前に、自分の死後に土地、建物を相手方昌史に与えたい趣旨の記載された自筆の書面(原審記録中の平成四年九月一一日付調査報告書添付資料第13号、以下、資料○号と表示する。)を作成しているが、右書面には作成日付の記載がなく、自筆遺言書としての効力は認められない。

他に、被相続人の遺言は存在しない。

3  遺産分割協議の成否

被相続人の葬儀が行われた平成三年四月三〇日、相手方卓司が遺産分割の方法等が記載された書面(資料8号)を持参し、抗告人武子及び相手方両名が右書面に署名した。しかしながら、右書面の記載内容については、右三名間で十分協議されたものではなく、抗告人武子は、葬儀の日ということもあって、内容を十分検討することもなく署名したもので、その後、同年一〇月二〇日ころに、右書面とは一部内容を異にする遺産分割協議書(資料3号)が相手方昌史の側から提示され、これを相手方両名は署名、押印したが、抗告人武子は右内容を不満として署名、押印を拒否した。

右の経過に照らすと、右相続人三名の間において、未だ遺産分割協議は成立していないというべきである。

4  遺産の範囲

(一)  被相続人の遺産は、別紙遺産目録(以下「目録」という。)記載1、2の土地、3ないし6の有価証券及び7ないし9の預金である。

右有価証券及び預金は、相続開始により法定相続分に応じて当然分割される可分債権であり、目録7の預金は、後述のとおり被相続人の死後に遺産である不動産の共有持分を処分して得られた代償財産であるが、これらを遺産分割の対象とすることについて相続人三名はいずれも同意しているとみられるので、本件遺産分割の対象とする。

なお、右以外に、被相続人の死亡時に、被相続人名義の郵便貯金(記号番号一五一七〇-六五七二三五一)二一万九五二二円が存在したが、その後、抗告人武子が解約して自己名義にしたうえ、二一万円を引き出しているので、右預金は被相続人の遺産から逸出したものと認める。

(二)  ところで、右相続人三名の父方祖父である福田善吉が昭和四三年四月八日に死亡したことにより、同人の遺産である広島市南区旭一丁目一三二九番三の宅地三四六・二一平方メートル(昭和五三年八月一九日一部分筆により三二八・八五平方メートルとなる。以下「旭一丁目の土地」という。)の共有持分一〇〇分の六〇を右三名が代襲相続した(右相続人三名の父福田敏之は昭和三九年七月二七日死亡した。)が、その際、相手方昌史が被相続人の扶養をするということで、同人の持分を一〇〇分の四〇、抗告人武子及び相手方卓司の持分を各一〇〇分の一〇と取り決め、そのとおり所有権移転登記を了した。

その後、後述のとおり、平成元年九月ころ、被相続人が相手方昌史の側から抗告人武子のもとに引き取られることになったが、抗告人武子は右土地について被相続人の持分がないのは不当であると主張し、相手方昌史は、右持分一〇〇分の四〇のうち一〇〇分の五を平成元年一二月二一日に、一〇〇分の一〇を平成二年一〇月一五日に、それぞれ被相続人に贈与し、その旨所有権移転登記を了した(その結果、右土地の共有持分は、相手方昌史が一〇〇分の二五、被相続人が一〇〇分の一五、抗告人武子及び相手方卓司が各一〇〇分の一〇となった。)。

旭一丁目の土地は、被相続人の死後である平成三年九月一七日、広島市に総額一億六八九〇万円余で売却され、手数料等を差し引いて、相手方昌史に三九二六万八八五〇円、抗告人武子及び相手方卓司に各一五七〇万七五四〇円、被相続人の分として二三五六万一三一一円が、それぞれ支払われた。

目録7の預金は、被相続人の分として支払われた右代金を預金したものである。

なお、抗告人武子は、相手方昌史の旭一丁目の土地共有持分の残る一〇〇分の二五のうち一〇〇分の一五についても相手方昌史から被相続人に贈与されていた(但し、所有権移転登記未了)から、遺産の範囲に含ませるべきである旨主張するが、相手方昌史が抗告人武子に対し、同抗告人が被相続人を引き取った平成元年九月ころ、右土地の共有持分一〇〇分の四〇を全て被相続人名義にすれば一番よいと思う旨記載された手紙を出していることが認められるものの、確定的意思に基づいて右持分を被相続人に贈与したとまでは認め難く、他に抗告人武子の右主張を認めるに足りる証拠はない。

(三)、次に、抗告人武子は、平成二年一〇月二日に、目録8の預金から九五万九八四四円を引き出し(目録8の預金は、その残額である。)、手持ちの金を加えて広島銀行大河支店に被相続人名義で一〇〇万円のMMC預金としたうえ、その後、これを引き出して税金等の支払に費消している。

相手方昌史は、抗告人武子が引き出して費消した右預金についても、遺産の範囲に加えて分割すべきである旨主張するが、遺産分割時において既に費消され存在しない預金は遺産分割の対象にはならないから、右主張は採用できない(仮に、不当な引き出しであるというのであれば、別途民事訴訟で争うべき事柄である。)。

(四)  さらに、抗告人武子は、前記旭一丁目の土地共有持分の相手方昌史から被相続人への贈与に要した手数料、贈与税等の費用一五九万円余を立て替え払いしたから、右債権を遺産分割の対象とすべきである旨主張するが、かかる費用は被相続人の債務に属し、相続人間で格別の合意がない限り遺産分割の対象にはならないところ、本件において、右合意を認めるに足りない。

また、抗告人武子は、被相続人の墓の建立費について、建立者の名義人になっていないから、自己が負担した費用の返還を本件遺産分割手続の中で請求する旨主張するが、相続開始後に生じた相続人間の債権債務関係を遺産分割の対象とすることはできない。

5  遺産の評価

相続開始時(平成三年四月二八日)及び遺産分割時(当審での決定時である平成六年三月を基準とする。)における遺産の評価は、次のとおりである。

(一)  目録1、2の土地については、原審における不動産鑑定士西本軍人の鑑定結果によれば、相続開始時の評価額は一三三〇万円であり、平成五年六月二八日の鑑定時の評価額は一四一〇万円であることが認められるところ、その後の価格の変動があったことを認めるに足りる資料はないので、右鑑定時の評価額をもって、遺産分割時の相当評価額と認める。

(二)  目録3の中国電力株式会社の株式六七五株の株価は、日本経済新聞の株価欄によると、相続開始時(平成三年四月二八日が日曜日のため、同月二六日を基準とする。)において一株二五五〇円で一七二万一二五〇円と認められ、遺産分割時(近接した平成六年三月一日現在を基準とする。以下、(三)、(四)につき同じ。)において、一株二七一〇円で一八二万九二五〇円と認められる。

(三)  目録4の新日本製鐵株式会社の株式二九五六株の株価は、日本経済新聞の株価欄によると、相続開始時において一株四六七円で一三八万〇四五二円と認められ、遺産分割時において、一株三五四円で一〇四万六四二四円と認められる。

(四)  目録5の日本鋼管株式会社の株式三九二九株の株価は、日本経済新聞の株価欄によると、相続開始時において一株四二一円で一六五万四一〇九円と認められ、遺産分割時において、一株二六〇円で一〇二万一五四〇円と認められる。

(五)  目録6の広島観光株式会社の株式一〇〇株の株価は、同社に対する弁護士照会の結果によると、額面どおり一株五〇〇円で取引されているので、相続開始時及び遺産分割時の評価額は、いずれも五万円と認めるのが相当である。

(六)  目録7の定期預金については、前述のとおり旭一丁目の土地が売却されたことによる代償財産であるので、相続時の評価額を前記被相続人の持分の売却代金二三五六万一三一一円とし、当審において相手方昌史が提出した資料によると平成五年一一月一九日現在の元利金合計が二四九二万四二七九円と認められるので、右金額を遺産分割時の評価額とする(その後の利息については些少につき省略する。以下、(七)、(八)につき同じ。)。

(七)  目録8の普通預金については、相続開始後に入金されたものが含まれているが、相続人らの間において右預金を遺産とすることに同意があるから、平成三年一〇月三一日現在の残高五六万一四五五円(資料5号)をもって、相続時及び遺産分割時の評価額として計算することとする。

(八)  目録9の定期預金については、額面が一万円で平成三年七月八日現在の残高も額面どおりであり(資料11号)、右金額を相続時及び遺産分割時の評価額とする。

6  寄与分

(一)  抗告人武子及び相手方昌史は、抗告審である当審において、寄与分を定める処分の申立てをなすところ、一件記録によれば、抗告人武子は、原審において、家庭裁判所調査官の調査に対し、寄与分についての主張をする意思があることを申し述べていたが、民法九〇四条の二第二項に基づく寄与分を定める処分の申立てをしなかったこと、一方、相手方昌史は、原審において、家庭裁判所調査官の調査に対し、寄与分がある事情を述べながらも、抗告人武子が寄与分の申立てをしない以上、その主張はしないと申し述べていること、原審判は、理由中で抗告人武子及び相手方昌史にいずれも二〇〇万円に相当する寄与分が認められるとしながら、寄与分の審判の申立てがないから右両名につきいずれも寄与分を定めることができないと説示していること、抗告人武子は、本件抗告をするとともに、当審において弁護士を代理人に選任し、寄与分を定める処分の申立て(平成五年(ラ)第一三三号)に及んだところ、続いて、相手方昌史も、同申立て(同年(ラ)第一四七号)に及んだこと、以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、抗告人武子は、原審において寄与分について主張する意思のあることを表明しており、当審において法律の専門家である代理人を選任して正式に寄与分の申立てに及んだものであり、相手方昌史においても、原審で寄与分がある事情を申し述べながら、抗告人武子の側で寄与分の申立てをしなかったから、同申立てを差し控えていたものであって、右両名の当審における寄与分の申立ては、いずれも、家事審判規則一〇三条の四第三項に所定の遺産分割の手続を著しく遅延させ、かつ、右各申立てが遅滞したことにつき右両名の責めに帰すべき事由があるとは認められない。この点について付言するに、原審においては、右両名から寄与分のある事情が申し述べられており、しかも、右両名に寄与分が認められるとしてその相当な金額まで認定しているのであるから、家庭裁判所の後見的役割からして、寄与分の申立てをなすことを促すなど適切な釈明権の行使をすべきであったというべきである。

そうすると、抗告人武子及び相手方昌史の当審における寄与分の申立ては、いずれも、適法になされたものというべきところ、本件においては、すでに、原審における家庭裁判所調査官の調査等によって、右両名の寄与分の各申立てについての事実調査が尽くされていると認められるので、本件遺産分割と併せて、以下、当審においてその各当否を判断することとする。

(二)  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  被相続人(明治四三年生)は、昭和七年に夫敏之(明治三七年生)と結婚し、両名間に、長女の抗告人武子(昭和八年生)、長男の相手方卓司(昭和一〇年生)及び二男の相手方昌史(昭和一七年生)が生まれた。

(2)  被相続人の夫敏之は、昭和三九年三月に胃癌の宣告を受け、同年七月二七日死亡したが、抗告人武子は、昭和三一年に結婚して家を出ており、その当時は、夫の勤務の関係でアメリカに在住していたため、敏之の看病は被相続人と相手方卓司及び同昌史において行った。

(3)  敏之の死後、被相続人と相手方両名は、亡敏之の父母とともに広島市南区旭一丁目の敷地内で生活していたが、亡敏之の母トクは昭和四二年に、父善吉は昭和四三年に相次いで死亡し、相手方卓司は昭和四二年三月に結婚して、相手方昌史はそのころ大学卒業と同時に就職して、それぞれ家を出た。

なお、亡敏之の父善吉の死亡により旭一丁目の土地の代襲相続があり、その際、同土地の共有持分について、相手方昌史が被相続人の扶養を行うということで、抗告人武子及び相手方卓司より多くの持分を取得したことは、前記認定のとおりである。

(4)  その後、被相続人は、右同所で一人暮らしとなり、急病や急用のときなどは、比較的近くに居住していた相手方卓司と同昌史に連絡し、右両名が何かと被相続人の世話をしていた。被相続人は、昭和六一年暮れに脳溢血で倒れ入院したが、相手方両名が看病に当り、抗告人武子も、当時居住していた東京から帰って、約一か月間、被相続人の看病に当たった。

(5)  被相続人は、昭和六二年五月ころ、病気が回復して退院したが、当時、抗告人武子は、東京のマンションに娘と二人暮らし(夫は実父母の扶養のため広島市内に居住)で、東京都消費者センターに勤務しており、相手方卓司は、病弱なこともあって、いずれも、被相続人を引き取れる状況にはなかった。そして、相手方昌史も、勤務の都合で、広島県呉市に単身赴任しており、結局、同県三原市において薬局をしている相手方昌史の妻宏子が、右退院後、被相続人を引き取った。

(6)  被相続人は、三原市の出身で、相手方昌史の妻宏子のもとに引き取られて、当初は同所での生活は順調にいっていた。ところが、次第に嫁姑の関係が険悪な状態に陥り、一時、被相続人は、旭一丁目の土地に小さな家を建てて一人暮らしをすることを望んだりしていたが、すでに高齢となっており、結局、相手方昌史が抗告人武子に懇請して、平成元年九月ころ、同抗告人のもとに引き取られることになった。

(7)  このようにして、被相続人は、東京のマンションにおいて抗告人武子と同人の娘との三人暮らしをするようになったが、高齢のため次第に体が衰弱し、平成二年六月ころからは、入、退院を繰り返すようになり、平成三年四月二八日、東京都世田谷区所在の有隣病院において死亡した(享年八一歳)。この間、抗告人武子は、前記勤務を続けながら、被相続人の日常の世話はもとより、入、通院の付き添いなど同人の療養看護に努めた。

以上の事実が認められる。

(三)  右認定事実に基づき検討するに、まず、相手方昌史においては、単身赴任生活のため、自ら被相続人を引き取ってはいないが、被相続人が脳溢血で倒れて入院し、その退院後である昭和六二年五月から平成元年九月まで二年余の間、妻の宏子がすでに高齢となっていた被相続人を引き取って日常生活の面倒をみており、このことは、相手方昌史の補助者としての行為と評価できるもので、同人の寄与と同視して差し支えないものと認められる。

しかしながら、前記認定のとおり、相手方昌史は、旭一丁目の土地の代襲相続の際、被相続人の扶養をするということで抗告人武子及び相手方卓司の四倍の共有持分を取得しており、被相続人が抗告人武子のもとに引き取られた後、その一部が被相続人に譲渡されているが、それでも最終的に右土地の共有持分一〇〇分の二五を取得し(抗告人武子及び相手方卓司は各一〇〇分の一〇)、平成三年九月に右土地の売却により三九二六万八八五〇円という抗告人武子及び相手方卓司の各一五七〇万七五四〇円と比較して二三五六万円余も多い金額を受け取っている。

そうすると、相手方昌史は、旭一丁目の土地の代襲相続において、被相続人を扶養することを前提に、抗告人武子及び相手方卓司よりも多い共有持分を取得していたものであり、相手方昌史の妻による被相続人の引き取り時期や期間、右土地売却による取得代金の差額などを考慮すると、右差額金の取得によって相手方昌史の側の寄与は十分に報いられているものと評価され、それ以上に同人に寄与分を定める必要はないというべきである。したがって、相手方昌史の寄与分の申立ては理由がないことに帰する。

次に、抗告人武子は、平成元年九月ころから、相手方昌史の懇請により被相続人を引き取り、平成三年四月二八日同人が死亡するまでの間、高齢のため次第に体が衰弱し入、退院を繰り返すようになった同人の日常の世話はもとより、入、通院の付き添いなど同人の療養看護に努めたことが認められる。

そうすると、抗告人武子は、被相続人の療養看護によりその財産の維持又は増加につき特別の寄与をしたとみるべきであり、右寄与の時期や期間及び程度、前記認定の遺産の評価額その他一切の事情を考慮すると、同抗告人の寄与分は、三〇〇万円と認めるのが相当である。

7  特別受益

相続人三名について、いずれも、特別受益となる事実は認め難い。

8  分割事情

(一)  抗告人武子は、東京都消費者センターに勤務し、夫は会社員で高齢となった実父母の扶養をするため広島市に単身赴任している。同人は、原審では自分の方から分割案を出すのは差し控えたいと述べていたが、当審において、目録1、2の土地を相続したい旨申し述べている。

(二)  相手方卓司は、会社員で、病弱であり、原審では、目録1、2の土地は相手方昌史が取得し、旭一丁目の土地の相手方昌史の共有持分一〇〇分の二五のうち一〇〇分の一五と、被相続人の共有持分一〇〇分の一五を相続人三名が均等に分割するなどと記載した平成三年四月三〇日付の合意書(前掲資料8号)のとおりに分割して欲しい旨回答している。

(三)  相手方昌史は、会社員で、妻は三原市で薬局を経営しており、原審では、被相続人の意志であったとして目録1、2の土地を取得することを希望し、右土地を無償で取得できれば、他の有価証券、預金の権利は放棄する旨回答している。

9  具体的相続分の算定

(一)  相続開始時の遺産総額

前記5で認定判断したとおり、被相続人の相続開始時の遺産総額は、目録1、2の土地の一三三〇万円、目録3ないし6の有価証券の合計四八〇万五八一一円、目録7ないし9の預金の合計二四一三万二七六六円の、以上合計金四二二三万八五七七円となる。

(二)  寄与分

前記6で認定判断したとおり、抗告人武子について三〇〇万円の寄与分を認めるのが相当である。

(三)  みなし相続財産の価額

右(一)から(二)を差し引いた金三九二三万八五七七円となる。

(四)  具体的相続分

(1)  抗告人武子

三九二三万八五七七円÷三+三〇〇万円=一六〇七万九五二五・六七円

(2)  相手方昌史及び同卓司

三九二三万八五七七円÷三=一三〇七万九五二五・六七円

(五)  具体的相続分率

(1)  抗告人武子

一六〇七万九五二五・六七円÷四二二三万八五七七円=〇・三八〇六八三四

(2)  相手方昌史及び同卓司

一三〇七万九五二五・六七円÷四二二三万八五七七円=〇・三〇九六五八三

(六)  遺産分割時の遺産総額

前記5で認定判断したとおり、被相続人の遺産分割時の遺産総額は、目録1、2の土地の一四一〇万円、目録3ないし6の有価証券の合計三九四万七二一四円、目録7ないし9の預金の合計二五四九万五七三四円の、以上合計金四三五四万二九四八円となる。

(七)  具体的取得分

相続人三名の具体的取得分を、(六)の遺産分割時の遺産総額に(五)の具体的相続率を乗じて算定すると、次のとおりとなる。

(1)  抗告人武子

四三五四万二九四八円×〇・三八〇六八三四 =一六五七万六〇七八円

(2)  相手方昌史及び同卓司

四三五四万二九四八円×〇・三〇九六五八三 =一三四八万三四三五円

10  当裁判所の定める分割方法

前記認定の分割事情など本件における一切の事情を考慮したうえ、次の方法により本件遺産分割をする。

(一)  相手方昌史

目録1、2の土地を単独取得させる。

具体的取得分(一三四八万三四三五円)と目録1、2の土地の評価額(一四一〇万円)との差額六一万六五六五円については、右遺産取得の代償として、抗告人武子に対し支払わせる。

(二)  相手方卓司

目録7の定期預金の中から、具体的取得分一三四八万三四三五円を取得させる。

(三)  抗告人武子

目録7の定期預金の中から前記相手方卓司に取得させた残余の分及び目録3ないし6の有価証券並びに目録8、9の預金(いずれも利息を含む。)を取得させ、相手方昌史から前記六一万六五六五円の代償金を受け取らせる。

11  手続費用の負担

本件手続費用は、原審における鑑定人西本軍人に支給した一四万円は相続人三名に各三分の一ずつ負担させ、その余の手続費用は、各自の負担とする。

四  結論

以上の次第で、本件遺産分割については、抗告人武子の寄与分を金三〇〇万円と定め、相手方昌史の寄与分の申立ては理由がないからこれを却下し、相続人三名にそれぞれ前記三の10のとおり被相続人の遺産を取得させ、相手方昌史から抗告人武子に対し金六一万六五六五円の代償金を支払わせることとするが、これと異なる遺産分割の方法を定めた原審判は相当でないので、家事審判規則一九条二項に基づき、これを取り消したうえ、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柴田和夫 裁判官 佐藤武彦 裁判官 古川行男)

別紙 遺産目録

1 広島県三原市和田町六六八〇番二

畑 四三平方メートル

2 右同所同番三

畑 一一二平方メートル

3 中国電力株式会社の株式六七五株(名義人・福田里代子)

4 新日本製鐵株式会社の株式二九五六株(名義人・福田敏之)

5 日本鋼管株式会社の株式三九二九株(名義人・福田敏之)

6 広島観光開発株式会社の株式一〇〇株(名義人・福田敏之)

7 広島信用金庫皆実支店の定期預金(名義人・福田昌史、福田卓司、中島武子、口座番号〇三三五六三四)

8 広島銀行大河支店普通預金(名義人・福田里代子、口座番号〇一一八三〇三)

9 広島銀行大河支店定期預金(名義人・福田里代子、口座番号〇一一八三〇三)

別紙〈省略〉

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